デルタ




俺の父と母はとても聡明であり、俺はそんな両親をいたく尊敬していたから、幼い頃から努力を惜しまなかった。
ひとより少しだけ飲み込みの早かった俺は何でもそつなくこなすことが出来、それを両親はとても喜んでくれ、両親の喜びや褒め言葉はますます俺の努力の糧となった。
そんなある日、カードゲームというものに出会った俺はあっという間にその虜になり、熱中した。勉強も楽しいけれど、デュエルで勝つことはテストで1番を取ることよりも数倍嬉しかった。
数々の大会で優秀な成績を修める俺を見た両親は、俺をデュエルアカデミアに入学させた。俺にとっても願ってもない嬉しい出来事だった。

そこで俺は二人の友を得る。
天上院吹雪と、丸藤亮。
勉学もデュエルも二人は相当に手強く、だからこそ勝ったときの喜びもひとしおだった。俺達はお互いがいたからこそこれだけ強くなれたのだと思っている。
もちろん競い合うだけでなく、三人でいれば何だって楽しかった。
すぐハメを外す吹雪と、それに付き合わされる俺と、冷静に諭す亮と。
そう、俺はとっても恵まれた人生を送ってきて、そこには何も難しいことなどなかったのだ。

いつからだろう。
三人はとても楽しいのに、二人になると緊張してしまうようになったのは。
触れられたところがぴりぴりするようになったのは。
バカみたいに心臓が早鐘を打ち、何も話題が見つからなくなって、二人でいると沈黙ばかりだ。
この病状を何と言うか、さすがの俺でも知っている。

それでも、俺は、三人でいたかった。

俺達はあまりにお互いといるのが心地よくて、この距離感に慣れきってしまい、これ以上近付くことも離れることもしたくないのだ。少なくとも、俺は。(そもそも俺一人が邪な感情を持っているんだけれど)
俺一人勝手に角度を変えてバランスを崩したら、俺達は三角形じゃいられなくなってしまう。


「藤原」
「なに、丸藤?」
「お前最近上の空だな」
「あ、それ僕も思ってたよ」
「ええ、そうかな?」
「何か悩みがあるんなら何でも相談してよね!特に恋のアドバイスなら任せてよ」
「人に話すだけでも楽になる…」
「うん、ありがとう二人とも」

恋のアドバイス、ね。
本当に相談したら吹雪は一体どんな顔をするだろう。
吹雪の呆気にとられた顔を想像したら少しおかしくて、バレないように俺は笑いを笑顔に変えて二人にお礼を言った。


ずっと考えてるんだ、この正三角形を崩さない方法を。
人間は数式では解けない。

俺は初めて人生を難しいと思った。








(お相手はどちらでも)