互い違い




僕と藤原は味覚が合わない。
僕の好きなものは藤原が苦手とするもので、藤原の好きな甘いものは僕の天敵。
それでも僕は君を誘うってのにさ。

「藤原、キスしようか。」

「やだよ。吹雪さっきキムチパン食べてただろ。」

にべもなく切り捨てられてしまった。せめて読んでる本から目を上げてくれればいいのに。

「藤原だってさっきショコラパン食べてたじゃないか…」
「知らないよ、キスしたいのは吹雪だろ?」

俺はキムチ味のキスなんて嫌だよ。

そう言って藤原は引き出しから白紙を引っ張り出すと何やら書き込み始めた。全くもって僕に構うつもりはないらしい。

確かに辛い味のキスなんてロマンがないし、そもそもキスは甘いものだと相場が決まってる。でも女の子たち相手ならまだしも、僕と君の間にそんなムードが出来たことがあるかなぁ。

僕は君のためならショコラ味のキスを我慢出来るのに。

「ゆーすけー」
「名前で呼ぶな」
「ケチ!キスさせてくれない上に名前も呼んだらダメだなんて!」

藤原は数式を書く手を止めて、初めて僕の方を向いた。
そして立ち上がると台所へ行き、手に一口サイズのチョコレートをいくつか乗せて僕の目の前に立つ。
にっこり。
微笑んだあと彼の口から出た言葉は、僕の微かな期待を打ち砕くものだった。


「これ食べたら、キスしてあげる。」


…ああ、いくら迷ったって、どうせ僕の右手は最終的にこの茶色いかけらに伸びるんだろう。
僕は半ばヤケで藤原の手からチョコレートをひったくった。
藤原は楽しそうに笑った。