翼を捨てて空を飛ぶ鳥



ぱたたっ。


「あーあ、逃げちゃった」

藤原が残念そうに呟く。

「そりゃあそうだよ、雀は人を見たら逃げる生き物なんだから」
「ちぇっ」

藤原は手に持っていたパン屑をつまらなさそうに投げた。
いつもは理知的な藤原が、まるで小さな子供に見えて僕は少し笑った。

「どうやったら雀に俺が無害だって分かってもらえるんだろう」
「それは君が人間で、向こうが雀である限り無理な話だよ」
「そうかなぁ」
「そうだよ」



そんな昼休みの他愛ない会話、出来事を、不意に思い出す。
僕の手には、藤原が残した不気味な仮面があった。藤原がつけていた仮面。残した言葉。ダークネス。僕には分からないことだらけだ。藤原の部屋には床を傷つけて描いた模様があって、代わりに一緒に撮ったはずのたくさんの写真は全部なくなっていた。
僕には藤原の精神の変貌が分からなかった。あんなに近くにいたのに。友達だったのに。

あの日の僕たちは人間同士だったはずだ、隣に立っていたはずだ。

僕の知らない内にいつの間にか君は鳥に姿を変え、近づく僕から逃げてしまった。あの日のパン屑の代わりになるものは何だろう。飛び去った鳥をもう一度見つけることが果たして出来るのだろうか。人間に。


僕は、吸い込まれそうな黒をした仮面をじっと見つめた。


僕も鳥になれば。
もう一度、彼に。