音のない朝




亮が卒業して、僕はダークネスの世界に行っていたから出席が足りなくて、少し留年することになって、一人ぼっちではないけど一人になって、別に回りには楽しい人達がたくさんいるからとっても寂しいということはないのだけれど、なんだかちょっとだけ寂しかった。
最初は一番仲の良かった亮がいなくなったから寂しいのだと思った。
僕がいくら女の子に囲まれているとはいえ、やはり腹を割って話せる男友達というのは大事だからね。

でもなんだか違う。
亮がいないのとは違う違和感が、徐々に僕を強く包むようになった。

部屋の掃除をしていたら、僕が買った覚えのないカードが出てきたり、週末に誰とも約束をしていないのに何か予定があったような気がするし、亮が以前遊びに来た時は何故かコップやお皿を三つずつ出してしまって笑われた。
僕はダークネスの世界に行く前、誰かと毎週部屋でデュエルをしたり、そんな仲の良い友達がいたんだろうか、僕が忘れてるんだとしたらとても申し訳ないから亮に聞いてみたら、亮はお前に友達はたくさんいたがそんな頻繁に部屋に泊まりに行くような友達はいなかったと言う。

なんだろう、何かを忘れている気がするんだ。

そう言うと、亮は気にするなという。お前は少し記憶が飛んでいるからそういう気がするだけだ、俺が言うのだから大丈夫だと。
僕は亮にお礼を言ったけれど、やはり心の隅に刺さったトゲは抜けなかった。

僕は毎朝教室に一人で行ってたっけ。
午後の授業が終わったこの時間を、一人で過ごしてたっけ。
僕は夜寝る前に、誰にもおやすみを言わずに布団に入ったっけ。
僕は、僕は、僕は。
何を失ったかも分からないのに、喪失感と寂しさだけがどんどん膨らんでいって、


僕は夢を見た。


真っ黒な、人のかたちをした影が、さらに暗い闇の中で靄のように溶けている。それはとても恐ろしいものだと直感的に思ったけど、足が動かないのは多分恐怖からではなかった。
靄が動いて、口が現れた。
口はゆっくりと動く。


「もうすぐ、迎えに行くからね」



僕は目を見開いた。
夢は覚めていた。
頬が濡れていて、僕は自分が泣いていたことを知る。何がなんだか分からなかったけれど、何が来るのかも分からなかったけれど、アレは僕が会いたかったものだ。
とても白くて寂しい朝だった。