ある日の午後


珍しく学校を休んでしまった。
いつも授業はサボっても学校自体は必ず行くんだけど、今日は誰にも会いたくなかったのだ。
昨日親父と大喧嘩をした。喧嘩と言っても俺が一方的に殴られるばかりなのだが。俺は健全な高校生男子である。その気になれば抵抗することも逆に親父を殴り倒すことも出来るだろうに、何故そうしないんだろう。自分でも分からない。精神が健全な高校生男子ではないのだろうか。俺だって一方的にやられっぱなしで腹が立たない訳ではない。でも身体が動かないものはしょうがないじゃないか。
そんな訳で顔は痣だらけだし目の上腫れてるし、割れた瓶の破片の上に倒れたものだから腕が擦り傷だらけだし、そういうのをいちいち説明するのはとても嫌だったので、無断欠席した次第である。

「である、じゃねーよ」

学校で配られたプリントとやらを律儀に家まで届けてくれた本田はそう言ってため息をついた。

「遊戯とか心配してたぞ、前の蛭谷の一件もあるしよー」
「わりー、謝っといて」
「お前出席日数で稼いでるのにさぁ」
「うるせえ」
「しかしまた一段と派手にやったなー」
「うっせぇってば」

本田はからりと笑うと、「俺ん家来いよ」、と言って立ち上がった。

「へ?何で」
「お前ん家包帯もなさそうだもん。手当してやるから」
「え、いいよ悪いって」
「傷は化膿したら怖ぇぞー」
「確かにこの城之内サマのカッコイイ顔に傷痕が残ったら大変…」
「いや、もともとモテないのがますますモテなくなるだろ」
「てめぇが言うな!リボンちゃんにフラれたくせに」
「あっ人の古傷をよくも」

俺たちは大声で笑ってどつきあいながら部屋を出た。
本田は何も聞かないから楽だ。こうやって傷だらけの顔で外に出るのも、コイツとなら何故か平気。
思うに、俺たちはきっと二人でいることでバランスが取れているのだ。

外に出て初めて気付いた、今日は空が高くてとてもいい天気だ。学校の屋上はさぞかし気持ち良かっただろう。授業中は昼寝日和だったに違いない。
ああ、遊戯達に会いたいな。下らないこといっぱい喋りたい。

「本田」
「なに」
「明日は学校行くよ」
「おぅ」

やっぱり本田は何も聞かず、でも少し嬉しそうに笑った。