冷たい部屋
城之内はふとテレビ画面から目を上げると、もうこんな時間か、俺帰るわ、と言ってコントローラーを置いた。
「そうか」
「明日もバイトだしな」
「もう遅い、送らせよう」
「いーよいーよ、すぐそこだし」
俺が送ると言っても必ず城之内は断る。断ると知りつつ一度は勧めるのだが。いつかはそれくらい頼ってくれるようになればいいのに、と思いながら。
じゃあな、と一言だけ置いてあっさりと城之内は部屋を出て行った。
ああ、と答えて顔を上げた時にはもう彼はいない。一抹の寂しさを覚え、窓を開けて下を見下ろすとちょうど門へと歩いていく彼を見つけた。ああ見えて勘の鋭い彼は俺に気付いたらしく、手を振ってまた明日!とにっこり笑った。
彼が門を出たのを見送って、静かに窓を閉める。暖房の効いた室内の空気が少し揺れた。冬の夜風は身を切るように冷たい。俺は窓を閉めれば良いが、彼はこれからあの寒い空気の中を歩き、暖房器具の一つもない家へ帰るのだ。そして冷たい布団にくるまって眠るのだろう。
俺はパソコンの電源を落とした。ブツンと無機質な音を立てて、画面は沈黙した。俺は彼をあたためてやる方法を知らない。パソコンの中にも、その答えはない。17年も生きているのに、何を学んできたのか全く以てこの頭は役立たずだ。
電源を落とした指先から、ぞくりと一筋の感触が全身を駆け巡った。
寒さのせいじゃないのは、自分が一番よく知っている。
ただ、酷く冷たいのだ。
それだけ。