タイプA
※社長が酷い人で微グロ





海馬は独占欲の人一倍強い男だった。
そして意外にも世話を焼くのが好きだった。自分の所有物を勝手に人に触られるのを嫌がった。何でも自分でやらねば気が済まなかった。
今思えば、兆候はたくさんあったけれど俺は近くに居すぎて気付かなかったのだ。

俺が高校を卒業して暫くすると、アル中だった親父は呆気なく死んでしまった。借金という負の遺産だけはしっかり残して。でもアイツを養わなくて良くなった分借金の返済は楽になった。
借金を全て返済したその次の日に、海馬は俺を自分の屋敷に引き取った。
俺は贅沢な生活に慣れていないし、借金のこともあって今までずっと断り続けていたのだが、完済した今断る理由はないだろうと言われれば返す言葉もない。それに俺だって恋人が近くにいるのは嫌な気分ではないのだ。

しかし近くなればなる程、海馬の独占欲はとどまるところを知らなかった。
俺はまず部屋から出ることを禁止された。次は海馬以外の人間に会うことを禁止された。辛うじてモクバが時々部屋に遊びに来るぐらいだった。こいつは大事なものを隠して誰にも見せないタイプだな、と思った。同時に俺は高校時代の親友を思い出す。遊戯は千年パズルをいつも首からかけ、肌身離さなかった。宝物を持ち歩くタイプだったのだろう。事実、あのパズルを組み立てる前だって学校にパズルのピースを大事に持って来ていたくらいだ。思い出すと俺は無性にみんなに会いたくなって、でも海馬がそれを許すとは思えなかったので、あいつが仕事で忙しい隙にモクバに頼んでこっそり外に出してもらった。
兄よりいくらか常識人であるモクバは兄の狂気に気付いているのであろう。俺に対して罪悪感を抱いているようで、割とあっさりと外に出してくれた。

しかし勿論それはすぐにバレて。
海馬はものすごく怒っていた。戻って来たんだからいいじゃねーかと言っても全く聞かなかった。一瞬でも自分の手の元から離れるのは嫌なのだと喚いた。その異常な執着心を少し嬉しいと思ってしまうくらいに俺もおかしかったので、俺はとりあえず謝ってもう二度としないと言った。海馬は少し思案する素振りを見せ、難しい顔をしながら部屋を出て行った。



次に目が覚めたらベッドの上だった。
随分長い間眠っていたようだった。
視線をさ迷わせると、ベッドの脇に座っていた海馬と目が合った。

「起きたか」

優しい声で海馬は囁く。その手が伸ばされ俺の髪を梳くと、何故かびくりと身体が強張った。俺は起き上がろうとしたが、腕に力が入らず失敗した。かいば、と呼んでみたがひどく掠れていて自分の声じゃないようだ。気持ち悪い。

「すまないな、痛かっただろう」

相も変わらず優しく俺の髪を撫でる海馬。こいつも優しすぎて気味が悪い。何だろう、この違和感。分からない。気持ち悪い。大体何の話をしているんだ。
海馬は俺を支えて上半身を起こすと、水の入ったコップを渡してくれた。少し喉の痛みがましになった。

「さすがの俺も外科には詳しくないのでな、少々お前を危険に晒してしまった。やはり専門医に切り落としてもらうべきだったか…。まぁ無事だったから良しとしよう。手は決闘が好きなお前の為に残しておいてやったぞ、感謝しろよ。案ずるな、その他の世話は全部俺がしてやる。何か困ることがあったらいつでも言え」

分からない。切り落とすってなんだ。俺は眠る前何があったのか思い出そうとしたが出来なかった。気持ち悪い。手は?手は残したって?その通り残ってる、今コップを持っている手は間違いなく俺の手だ。じゃあ何がないんだ。ああ、まさか、まさか、

俺は、恐らく自分でもひどい顔で海馬を見ただろう。海馬は殊更に優しく微笑むと、ゆっくりと布団をめくった。

確かにくっついていたはずの俺の両足は太腿の途中で姿をなくし、その先に真っ白な包帯が幾重にも巻かれていた。
俺は息を呑んだ。

「あ、あ、」
(やめろ!やめ、俺が悪かった、海馬!頼む、やめてくれ、痛い、痛い、痛い、)
「城之内、」
(これでお前はずっと俺の側に居られる)
「う、嘘だ、」
(うぅ、いやだ、いたい、いたい!いたい!いたい!)
「城之内」


フラッシュバックした記憶にがたがたと震える俺の肩を支え、落ち着かせるように抱きしめる海馬。この状況を作り出した張本人はお前だと言うのに、俺が縋り付く相手はコイツしかいない。
海馬は俺の肩を抱いたままそっと囁いた。


「愛しているぞ」
(愛しているぞ)