指
海馬は何事もまっすぐなものが好きなのだそうだ。常々「俺は曲がったことが大嫌いだ」と言っている。他の人が思わず首を傾げる言動もきっと彼にしたら一本筋が通ったことなのだろう。どうせいつも我が道を突き進んでいる彼なのだから。
ところで自慢じゃないが俺の身体は全然綺麗じゃない。あちこちに喧嘩の名残や親父に付けられた火傷の痕とかがある。そんで骨折や捻挫、軽い突き指なんかも絶えなくて、昔折った俺の小指は曲がったまんま。海馬や遊戯のカードを操る指はぴしっと伸びていて、俺なんかと比べるまでもなくすげえ綺麗だ。俺の手と言えばバイトで荒れてカサカサ、切り傷も山ほど。今まではそんなの全く気にしてなかったが(本田も似たようなものだし)、やはり付き合ってる奴が社長さんだと着ているものも段違いでいくら俺だって釣り合わないなとか外に出かけた時隣にいるのが俺じゃあ格好悪いよなとか思う訳で、せめて手くらいあいつに釣り合うように綺麗でいたいのだけど曲がった指はどう直せば良いのか。というかそもそも直るものじゃないしなぁ。
「海馬、俺の指曲がってる?」
「…あぁ、曲がってるな。喧嘩ばかりするからだ」
「やっぱり」
海馬は仕事中なのでそれ以上何も言わなかった。俺もそのまま海馬の部屋を出た。やっぱり俺の小指は曲がっているのだ。どうしたらまっすぐになるのだろう。
最初は反対側に折ろうかと思った。金づちかなんかで叩いたらいけるかな、と思った。でも思い出してみると最初に骨折した時だって添え木をしてまっすぐになるようにしていたのに曲がってしまったのだ。再び折ったからと言ってまっすぐになるとは限らない。加えて俺は力の加減を知らない。やりすぎて粉砕骨折しないとも限らない。かと言ってじゃあどうしたらいいのかと言うと俺の貧相な頭じゃ思い付かない。
俺は三日三晩考えた揚句もういっそ切り落としてしまえという結論に達した。
俺の家に一本しかない切れ味の悪い包丁で指を切るのは何だか嫌だったので、海馬の家に行って厨房を借りた。もう顔なじみの海馬邸のメイドさんに、あいつに手料理を作ってやりたいなんて殊勝な理由を述べてみれば至極あっさりと通してくれた。申し訳ないけどさ、お前ん家なら包丁たくさんあるだろ?一本くらい汚れてもいいよな?それにお詫びじゃあないけど料理は本当に作るよ。このところ忙しくて疲れ気味みたいだし、あいつフルコースばっかり食ってそうだからあっさりと和食にして、何か消化の良さそうなものを。
「海馬、邪魔すんぞー」
「…お前か。悪いが今は手が放せない」
「構ってもらいに来たんじゃねーよ。お前最近本当に忙しそうだしな。聞いて驚くなよ、お前の為に手料理作ってやった」
ほら、と俺が御膳を差し出すと海馬はぐるっと振り向き食べると即答した。俺が珍しいことをするとこいつは食いつくのだ。こういうとき俺はやっぱり好かれているんだと再認識して嬉しくなる。
海馬は俺の手料理を残さず食べ、悪くないと言った。それは海馬の最上級の褒め言葉なのだ。俺は満足して海馬から御膳を受け取り、また仕事に戻らなければならない海馬に頑張れよと声をかけて出て行こうとした。が、海馬は俺の手に巻かれた包帯に目敏く気付きそれはどうしたと聞いてきた。俺は包丁で切った、と答えた。
「深いのか、血まみれじゃないか。帰る前に診てもらえ」
「…そうだな、はは、さすがに何かクラクラしてきたぜ。俺貧血とかなったことないけどこんな感じ?」
海馬は俺の言葉を冗談だと思い笑おうとしたが、包帯がついに血液を吸収しきれずぼたりと絨毯に染みを作ったのを見て顔色を変えた。
「おい!見せてみろ!」
叫ぶや否や素早く歩み寄ると俺の手首を掴み、包帯を解こうとし、俺の指が4本しかないのを見て―――絶句した。
「城之内…」
「だから言っただろ。切ったんだって」
「指は!指はどこへやった!今ならまだ間に合う!」
「間に合わねーよ」
俺は低く笑った。
「お前が食っちまったもん」