a child of today
「おはよう藤原、ねぇ、僕昨日君の部屋に携帯忘れてなかった?」
昨日の夜から見当たらなくてさ。
そう言うと、藤原はああ、忘れてたよ、と思い出したように答えた。
「ほんと?良かったぁ、あとで君の部屋に取りに行くよ」
「いいよ、わざわざ」
「だって僕が忘れたのに君に持って来てもらうんじゃ悪いだろう」
「…うん…そうだけど…」
僕は当然のことを言ったつもりなのだが、何故か藤原は言葉を濁す。
部屋に何か見られたくないものでもあるのだろうか、今更な仲なのに。
そんなことを考えながら藤原の部屋を訪ねると、とりあえず上げてもらえたものの藤原は落ち着かない様子。何故か机の上には工具箱が置いてあってネジやドライバーが転がってる。目覚ましでも分解したんだろうか。
「どうしたの藤原」
「あ、あの…携帯なんだけど」
「うん」
「壊れちゃったんだ」
「え?」
あれ?あの机の上の無惨な残骸ってもしかして僕の携帯?
「直そうとしたけどやっぱり無理だった…ごめん」
「壊れたって、ええ、何で?しかも直そうって…元が分からないほどバラバラじゃないか…まさかこれが僕の携帯だなんて思わなかったよ」
「本当にごめん!」
必死で謝る藤原に、とりあえず訳を聞かせてよ、と促すと、彼はしばらく視線をさ迷わせたあと重い口を開いた。
「…昨日…吹雪が帰ったあと…」
「うん」
「吹雪が携帯置いてったのに気付いたんだけど、明日でいいかなって思って勉強してたら、何回も何回もメールが来たり着信があったりして」
「うんうん」
「悪いかなって思ったけど吹雪の家族とかから大事な用事があったらどうしようと思って履歴を見たら、全部違う女の子の名前で」
「………」
「気付いたら携帯が二つに折れてました」
「ねえ、それ壊れたんじゃなくて君が壊したんだよね」
「記憶がないんだ」
「君以外ありえないだろう!」
「…ごめん」
藤原はしおらしくうなだれた。
その姿に若干心動かされたものの、携帯も嫉妬から壊したと分かってるものの、僕の方こそうなだれたい気持ちを抑えられない。
「あーあ…どうすんの女の子たちのアドレスいっぱい入ってたのにさぁ…」
「でもさ…吹雪もひどいよね…僕がいながらまだ女の子たちと付き合ってるってことだよね」
「付き合ってるのは君一人。女の子たちは僕のファン、愛すべきお友達さ」
「そんなこと言いながらどうせ誰にでも同じこと言ってるんだろ?」
僕の発言が藤原の嫉妬心に火をつけたようだ。先程までの大人しい態度は頭を引っ込め、刺々しい口調と釣り上がった目で僕を突き刺す。
「僕のお姫様は君だけだよ」
本当、他の子にはキスだってしないんだから。
王子様のように藤原の手を取ってその甲にキスをした。
わがままなお姫様はご機嫌が治ったようで、にっこり笑った。その顔があんまり幸せそうなので、携帯が壊されたことも全部どうでもよくなってしまった。
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